2026.4

 

主宰句

 

紅梅を咲かせ船頭小屋の留守

 

受験より戻り水辺に佇める

 

時じくの簾煽れる春一番

 

ビル風に向かひふためく春の服

 

蛇穴を出づ全長の不確かに

 

春の猫法然さまの坂見上げ

 

こんなにも椿咲くゆゑものわすれ

 

鴨残るジェットスキーの横波に

 

かりそめに撞く鐘の音に春闌くる

 

春更くをもとより愁ふナマケモノ

 

巻頭15句

     山尾玉藻推薦              

 

大歳の一斉に立つ管楽器        湯谷  良

 

寒林の空の真つ青歩き神      山田美恵子

 

水仙の花数のふえ春遠し      坂口夫佐子

 

初雪の夜は神事の縄綯へり     蘭定かず子

 

大榾を反す袴の裾明り       小林 成子

 

オルガンの膨よかなる手降誕祭   亀元  緑

 

夜の雪の音積もりゆく障子の桟   わたや 栞

 

臘梅の香につきあたる羽音かな   するきいつこ

 

臥す人に氷柱の影ののびて来し   大内 鉄幹

 

青年のダッフルコート失恋らし   五島 節子

 

冬耕や己の影を恃みとし      福盛 孝明

 

一筋の藁を引きあふ初雀      上林ふらと

 

水の芯捉へ白鳥かがよへる     大東由美子

 

京ことば交へ丹波の初句会       芦田 美幸

 

兄の忌や障子に透くる花模様    高尾 豊子

 

今月の作品鑑賞     

        山尾玉藻                 

大歳の一斉に立つ管楽器    湯谷  良

 大晦日、コンサートが開催されています。演奏中、管楽器の奏者が一斉に立ち上がり、高らかに躍動感を高めます。中でもライトを浴びた金管楽器は眩しいほど輝き、新年への期待感を大いに高めたことでしょう。

寒林の空の真つ青歩き神    山田美恵子

 「歩き神」は「そぞろ神」とも言い、人をそぞろ歩きに誘い出す神のこと。寒中山歩きをする作者はふと仰いだ空の青さに心奪われ、急に悴んでいた心身が緩み始めたのを感じ、ここまで歩いてきたことに充足しています。これが下五に「歩き神」を据えた由縁でしょう。

水仙の花数のふえ春遠し    坂口夫佐子

 水仙の花が真っ白の所為なのか、細長い茎が風に応え易い所為なのか、群れ咲いていても一本きりで咲いていても寒々しさを覚えさせる花です。その水仙特有の寒々しさが、作者に「春遠し」の感慨を呼びました。

初雪の夜は神事の縄綯へり   蘭定かず子

 初雪が降る夜、土間で神事に捧げる縄を綯っています。恐らく儀式は産土神の行事と思われ、それ故に縄を綯う指に力が籠められるのでしょう。「初雪」よりこの季節と神事を待ち兼ねていた思いが伝わります。

大榾を反す袴の裾明り     小林 成子

 大晦日、社の境内で行われる御火焚祭の一景でしょうか。焚かれる火とその番をする宮司の様子を具現化する為に、宮司の袴の裾に着目して成功しています。「裾明り」の一語で火の勢いが見て取れるでしょう。

オルガンの膨よかなる手降誕祭  亀元  緑

 「オルガン」の音の素朴さと、鍵盤を押す「膨よかなる手」の温かさが、「降誕祭」という汚れない世界を創り上げています。同義の「クリスマス」の響きでは

この世界を望むのは不可能だと思われます。

夜の雪の音積もりゆく障子の桟  わたや 栞

 無論障子の外で降る雪の音は聞こえず、まして障子の桟に雪が積もっていく筈もありません。しかし聞こえぬ雪の音に一心に耳を傾ける清澄な境地を伝えんが為に、このようなやや誇張した表現を取ったようです。

 臘梅の香につきあたる羽音かな  するきいつこ

 臘梅は甘い香を漂わすものの、蠟細工の様な花は固く冷ややかさを漂わせています。それ故慌ただしい羽音が「香につきあたる」とは見事な捉え方と言えます。

臥す人に氷柱の影ののびて来し  大内 鉄幹

 作者はドクター。顔馴染みの患者の往診に行き、ふと軒先の氷柱の影が今まで以上にベッドの患者に濃い影を置いているのに気づきました。北国の、しかも定期的に往診される医師ならではの眼が働いた一句です。

青年のダッフルコート失恋らし  五島 節子

 水牛の角を模したボタンと大きなフードが特徴のダッフルコートはよく目立ち、やはり若者向けコートでしょう。作者はこのコートの青年の恋の話を小耳に挟んでいたのでしょうか、いつになく肩を落とすその姿に、もしや失恋したのではないかと気をもんでいます。

冬耕や己の影を恃みとし     福盛 孝明

 枯一色の寒々しい景の中で黙々と耕す人物を見かけると、ついその人物の心中もさぞ淋しいだろうと思い込むものです。作者もその人の濃い影を見つつ、「己の影を恃みとし」と感情移入しています。

一筋の藁を引きあふ初雀     上林ふらと

 この景は冬田でよく見かけますが、雀が「初」を冠するだけで俄かに目出度い景と一変します。このように新年の季語自体が既に目出度さを語っており、変哲もない景や事と取り合わせても立派な新年詠となります。  

水の芯捉へ白鳥かがよへる    大東由美子

 水に浮かぶ白鳥ほど優雅な景を創り出す水鳥は他になく、どのような景にあっても十分にその存在を主張できる鳥でしょう。だからこそ作者に「水の芯捉へ」の感慨を呼んだと思われます。

京ことば交へ丹波の初句会    芦田 美幸

丹波地方の丹波言葉には「べっちょない」「~しとってや」「~ない(しなさい)」等、地が育んだ柔らかで温かなイメージがあり、これに比して京言葉にははんなりとした奥ゆかしいイメージを抱きます。この両言葉が交わされる初句会、これもまた趣があっことしょう。

兄の忌や障子に透くる花模様   高尾 豊子

 障子に透ける花は障子紙の地模様ではなく、障子の穴を繕う花形の紙片でしょう。それは生前兄上が張られたものだったのでしょう。だからこそ作者はそれに眼を留め、いよいよ兄上を偲ばれたのです。