2015.9月
主宰句
宵の水掃き鉾町の男かな
このあたり山鉾過ぎし青木賊
鳩居堂の前に閊へし子供山車
腹見せしまま灯取蛾の掃かれけり
草ぐさのこゑ踝に残暑かな
シャッター通りのかかり盆花売のゐし
吾がための門火を思ひ門火焚く
髻のやう結び十六豇豆かな
つねの座のつねの席なり獺祭忌
月明の枕をはづれ子の頭
巻頭15句
山尾玉藻推薦
色鯉がうろこ吐きたる入梅かな 深澤 鱶
蛇泳ぐ波紋のあとを風の紋 山田美恵子
日盛や不意に開きし大引戸 大山 文子
降り出して山のにほへり夏祓 蘭定かず子
香水の知り人に声かけそびれ 藤田 素子
ぎやうさんの蛍袋のつまらなし 西村 節子
杉谷のどどと水吐く四芭かな 坂口夫佐子
放生の亀の出歩く沙羅の花 林 範昭
姫女苑ふり向きざまの一人なる 今澤 淑子
声変りの群れて行きたる夕焼中 小林 成子
雨空の端の明るし蝸牛 松山 直美
嵐電のカーブして消ゆ日の盛 河﨑 尚子
夏の野に出で気散じな吾が手足 山本 燿子
独り居をつむぐや蜘蛛のむらさきに 髙松由利子
いま活けし向日葵あらぬ方向ける 城尾たか子
今月の作品鑑賞
山尾玉藻
色鯉がうろこ吐きたる入梅かな 深澤 鱶
色鯉が餌とまちがって飲み込んだ仲間のうろこを吐き出したのでしょう。華麗な色鯉に不似合なうら淋しい光景が、作者に今日が入梅であるという意識を呼び起こしたのでしょう。
蛇泳ぐ波紋のあとを風の紋 山田美恵子
水面を渡る蛇がつくる波紋は静かな妖しさを湛えています。その蛇を追うように風が立ったのでしょう。蛇の波紋を消してゆく風の爽やかな波紋に、穏やかさを取り戻してゆく作者です。
香水の知り人に声かけそびれ 藤田 素子
出先で見かけた知り合いは香水の香を漂わせていて、作者は声をかける機会を逸したのです。恐らく普段は香水をつけるイメージの人ではないのでしょう。女性特有の心理が働く一句です。
ぎやうさんの蛍袋のつまらなし 西村 節子
螢袋は秘密めいたものを包み込んでいるようで、ついその花の中を覗いてみたくなるものです。しかしそれが群れ咲いていると好奇心も薄らぐというもの。所を得て二、三本咲いているのが螢袋らしいのでしょう。
放生の亀の出歩く沙羅の花 林 範昭
境内で亀の放生会があったのでしょう。亀が零れている沙羅の花の辺りをのそりのそりと這う景に不思議な可笑しさがあります。おおような亀にも放埓ものがいるようで「出歩く」の措辞がなかなか愉快です。
のぞみ号にまづ夏帽子掛にけり 田村 昶三
のぞみ号に乗車した作者はまず夏帽子を窓側のフックに掛けたのですが、夏帽子をのぞみ号そのものに掛けたと大胆に表現して成功しました。旅の始まりの心浮き立つ様子。