今月の火星作品

主宰句

 

子細などとんと忘じし蓮の骨

 

この家に子供あらざる雪だるま

 

大年の音に牛蒡を叩きけり

 

ぶらんこに乗る文鳥に御慶かな

 

走り初む罅のはしこし鏡餅

 

岡持が日照雨をきたり松の内

 

潮染みの風のからまる鳥総松

 

旧正の梢に鳥の隠れなし

 

他言ならざる寒紅を引きにけり

 

寒雷や鉛筆にある子の歯型

 

巻頭15句          

金閣の金を囃して悴めり         深澤  鱶

落葉踏む音のしだいに無頼なる      湯谷  良

穭田もすくもも雨の丹波口        坂口夫佐子

あかあかと森に落つる日冬休       蘭定かず子

底ひにも水の面のあり新豆腐       越智 伸郎

菜の花や手摑みに撒く油かす       大山 文子

雪晴や鍵盤すべる羽根ブラシ       山田美恵子

茎石の数のかたぶく寒の入        山本 耀子

狩人の一瞥山雨にはかなり        西村 節子

傘内の時雨の匂ひ日のにほひ       井上 淳子

船窓の闇へ寒紅つぶやきぬ        松本 薬夏

背の子の寝息の匂ふ雪催         根本ひろ子

庭隅にブランコのある寒さかな      藤田 素子

小春日の引越してゆく鳩時計       石原 暁子

冬川原鴉声なくあらそへる        林  範昭

 

今月の作品鑑賞    

金閣の金を囃して悴めり        深澤  鱶

 「囃して」に、金色を褒め称える心情と言うよりは、煌びやかさに余り同調できないでいる心情が滲み出てます。その否定的心情を「悴む」に巧みに語らせているのですが、これは決して技巧的選択ではなく、季語「悴む」の本意から生まれた本来の作句のあり方と言えます。厭味のないアイロニカルな味を楽しみたいものです。

落葉踏む音のしだいに無頼なる     湯谷  良

 「無頼」には無法な行為をする者の意と頼るべきところが無い者の意がありますが、掲句の「無頼」に漂う雰囲気は後者の方と思われます。その人物が「落葉」を踏む音に耳を傾けていた作者は、その音が次第に寂しさを増すように感じられて、人物のこころの内の翳りを垣間見たような思いとなったでしょう。詩人の聴覚は鋭く、また細やかです。

穭田もすくもも雨の丹波口       坂口夫佐子

 出石一泊吟行のバスが丹波に入ると、雲が空を覆い始めていました。実際に雨はまだ降っていなかったが、辺りの景はうすら寒さとうら淋しさを濃くしていました。作者はそこをすかさず感じとったのです。「丹波口」に焦点を絞られたことで、これから広がるこの地特有の趣を肌で感じ取ることができるでしょう。

あかあかと森に落つる日冬休      蘭定かず子

「あかあか」は取り立てて表現することではないようですが、作者は落暉の赤さにこの季節特有の感慨を覚えているのです。それは短日を意識するが故の思いであり、そこに短い「冬休」中の子供達の思いをふと重ねているのです。一見平凡な内容のようですが、「冬休」を平明に詠んで確かな実感が伝わってくるでしょう。

底ひにも水の面のあり新豆腐      越智 伸郎

 水槽に沈む「新豆腐」が手に取るように透き通って見えるという景でしょうが、これも「新豆腐」を意識したが故に「底ひにも水の面」という発見を得られたのです。この作者のやや特異な視点の作句姿勢に注目しているのですが、このように独りよがりに終わらぬ誰をも納得させる表現に努めてほしいと願っています。

茶の花や手摑みに撒く油かす      大山 文子

 作者の住いに近い木津川の河原では茶の栽培が盛んです。茶の木の根元に「油かす」が「手摑み」で施されるのに注目したのは、その行為が辺りに咲く茶の花の清楚さに少々似つかわしくないと感じたからでしょう。「茶の花に」ではなく「茶の花や」と切った点にそれが確かに表れています。

茎石の数のかたぶく寒の入       山本 耀子

 京都上賀茂辺りで見かける酢茎漬けは、桶の「茎石」が偏らないように天秤で圧されています。しかし、掲句は酢茎屋の店頭の景でしょう。「茎石」がとりどりに傾いているのはいかにも寒々しく、作者に「寒の入」を強く意識させた所以でしょう。

狩人の一瞥山雨にはかなり       西村 節子

 山中で「狩人」とすれ違った瞬間、彼から投げかけられた「一瞥」に鋭いものを覚えた作者に違いありません。「山雨にはかなり」の強い断定にそれが如実に表れていると思われます。

傘内の時雨の匂ひ日のにほひ      井上 淳子

 「時雨」が幾たびも来るので傘を畳まず歩いていた作者でしょうが、その内「雨の匂ひ」と共にその合間あいまの「日のにほひ」をも楽しみ始めたようです。「傘内の」の世界に俳人らしい宜しさがあります。

船窓の闇へ寒紅つぶやきぬ       松本 薬夏

 夜の船内の一齣を詠んでいます。真っ赤な「寒紅」の女性は窓外の闇に広がる海原に向かい何を呟いたのでしょうか。想像力をかき立てるミステリアスな一景であり、作者のこころ深く刻まれたことでしょう。

背の子の寝息の匂ふ雪催        根本ひろ子

 胸で負う最新のおんぶ紐ではなく、昔ながらのねんねこを着込んで赤子を寝かせている作者でしょう。子供と一つ身となる半纏だからこそ、子の「寝息」がじわりと「匂ふ」のです。「雪催」の暗さや寒さが子の「寝息」の暖かさを引き立てています。

庭隅にぶらんこのある寒さかな     藤田 素子

 「ぶらんこ」は忘れられたように風に揺れているに違いありません。それは作者が「ぶらんこ」を寒さの対象と見つめている点から想像されます。設定が「庭隅」であるのもなかなか効果的です。