2015.8月
主宰句
梅雨の村水路にひしと囲まるる
蟇おのれの臭に身じろぎぬ
勝手よきうりざね顔の団扇かな
トタン塀に風強き日や羽抜鶏
ラムネ瓶ぬきて山河をしぶかせり
走り雨ありし薬草いきれかな
片蔭にハザードマップつつ立つる
ぐんぐんと潮入となる円座かな
夏負けてくれなゐの橋渡りけり
夏負けて辛味大根にも負けて
巻頭15句
山尾玉藻推薦
打つ涛に陸の古りゆく大南風 蘭定かず子
神呼べば本殿に風大原志 大山 文子
隔たりの定まつて来し遠青嶺 小林 成子
花に病み若葉に痩するよはひかな 山本 燿子
水無月の軒端に小さき魔除鎌 坂口夫佐子
切れ深き葉のさみしさの牡丹かな 深澤 鱶
葺替へて産屋の闇を深うせり 奥田 順子
青梅に染まる眼鏡の数へだす 山田美恵子
夫の忌の蕗むく指ののこりけり 大東由美子
ガード下の飲み屋の棚の水中花 河﨑 尚子
遥かなるひなげしに風うつりけり 田中 文治
静かなる馬の移送車夏来たる 井上 淳子
足生えし蝌蚪ゐる水は嫌ひなり 湯谷 良
温暖化すすみてをりぬ浦島草 堀 志皋
物知りのぶつぶつ言ひし薬狩 福本 郁子
5句鑑賞
山尾玉藻
隔たりの定まつてきし遠青嶺 小林 成子
毎日のように青々と茂り始めた遠い峰々を眩しく眺めていた作者は、ある日ふとそれを普段の景として眺める自分に気付いたのです。「隔たりの定つてきし」とは、遠青嶺を常の生活の一部として眺めるようになったと言う意味合い。
花に病み若葉に痩するよはひかな 山本 燿子
遅桜の頃より体調を崩された作者は、葉桜の候となってもどうも優れぬ自分に少し気落ちされているようです。中七までは畳み掛けるような措辞ですが、それが却って下五「よはひかな」の溜息のような感慨に深みをもたらせています。
夫の忌の蕗むく指ののこりけり 大東由美子
蕗の皮はとどこまでも剥き足らないように思え、その上指先は灰汁で真っ黒になり、なんとなく淋しい思いとなるものです。作者も「指のこりけり」と呟くだけでこころの内を表立てることはありません。俳句と言う詩型を大いに信頼しているからです。
静かなる馬の移送車夏来たる 井上 淳子
いななきもせず、蹄で床を蹴るわけでもなく、輸送車の中で静かにしている馬はかなりの駿馬なのかも知れない、などと想像できます。引き締まった馬の横顔と「夏来たる」の明快さがよくひびき合っている一句です。
足生えし蝌蚪ゐる水は嫌ひなり 湯谷 良
卵から孵った蝌蚪はちょろちょろと愛らしものですが、生々しい手足が生えだすとその感情は大いに覆るようです。「蝌蚪ゐる水は嫌ひなり」の強い断定で、手足の生えた蝌蚪のいる水さえも否定したところがなかなか爽快であり、愉快でもあります。