2015.7月

 

主宰句

 

 

藻畳へ杷の伸びし朝ぐもり

 

またたびのよく翻る夏祓

 

菅貫の水くぐりたる思ひかな

 

井戸蓋の神酒へ風鈴鳴りにけり

 

塩入れて湯の踊りたつ西日かな

 

まくなぎの毬のむかうの松の肌

 

水風呂や一つ葉揺るる巌見え

 

フォアグラにナイフを入るる旱星

 

夕晴れの夾竹桃の汚れゐし

 

土用涛はるかに鳴れる虫柱

 

 巻頭15句

      山尾玉藻推薦


砂はらひ砂にもどせり桜貝         坂口夫佐子

 

駄菓子屋に軍手の束や夏来る        奥田 順子

 

鵺塚に近く一朶も散らぬ花         髙松由利子

 

田に降りしはなびらすぐに土の色      山田美恵子

 

逃水を不意によぎりし割烹着        林  範昭

 

法務局の低き天井花の昼          西村 節子

 

もう元にもどれぬかたちチューリップ    垣岡 暎子

 

花冷を来し円卓のちりれんげ        蘭定かず子

 

本降りとなる兼六園緑摘む         山本 耀子

 

花の夜をぴたりと鎖せりチェックイン    小林 成子

 

おもひきり顔埋めたるレタスパン      大東由美子

 

日向より人の声する立子の忌        涼野 海音

 

雛僧の袖の寄せたる花筏          深澤  鱶

 

春の旅終へし畳にだんご虫         大山 文子

 

花盛りだれにともなくありがたう      波田美智子

 

5句鑑賞        

 

     山尾玉藻


駄菓子屋に軍手の束や夏来る     奥田 順子

店先の駄菓子に並んで束にされた軍手が売られている景を目にして、作者は理屈ぬきに初夏を感じています。意外な場所に見つけた白い軍手の清潔感がこの感応を呼んだのでしょう。

 

鵺塚に近く一朶も散らぬ花      髙松由利子

鵺が流れ着いたとされる芦屋浜の松原には鵺塚があり、その横を流れる芦屋川沿いは桜の名所となっています。恐ろしい鵺を目覚めさせまいと桜の精が息をひそめているような一景。

    

逃水を不意によぎりし割烹着     林  範昭

遠くの逃水をぼんやり眺めていた作者は、そこを不意に過った割烹着に驚いたのです。真っ白な割烹着が幻のようにも感じられたのかも知れません。花柄やカラフルなエプロンでは成立しなかった一句です。

 

法務局の低き天井花の昼       西村 節子

 

不動産登記や商業登記を扱う法務局は一般人には特別の場所。緊張感や違和感が天上の低さを強く意識させたのでしょう。「花の昼」の明るさが館内の重苦しい雰囲気を一層強調するようです。

 

花の夜をぴたりと鎖せりチェックイン 小林 成子

ひと日を共に花に遊んだ旅であったのでしょうか、夜半それぞれが自分の部屋に散って行きます。ガチャリと扉を閉めた途端、ホテルの一室と言う花の夜とは全く異質の空間に身を置いた作者は、急に花疲れを覚えたのでしょうか。とても詩因とならないような「チェックイン」の一語が無限大に語りかけてきます。